うか。「をし/\」と警蹕を寫したのは、必しも發音を糺したものとも思へないし、第一其頃、既にお[#「お」に傍線]・を[#「を」に傍線]の音韻の混同がはじまつてゐるのである。壓《オシ》はおそはく[#「おそはく」に傍線]・うしはく[#「うしはく」に傍線]の義の「壓す」から出たものでなく、また「大《オホシ》」に通ずる忍《オシ》・押《オシ》などで宛て字するおし[#「おし」に傍線]とも違ふ樣だ。來臨する神と言ふ程の古語ではなからうか。おしがみ[#「おしがみ」に傍線]なる故に「をし/\」と警めるのか、「をし/\」と警めて精靈を逐ふが常の神なる故におしがみ[#「おしがみ」に傍線]と言ふのか、いづれとも説けるが、脈絡のない語ではあるまい。
三河北設樂郡一般に行ふ、正月の「花祭り」と稱する、まれびと[#「まれびと」に傍線]來臨の状を演ずる神樂類似の扮裝行列には、さかきさま[#「さかきさま」に傍線]と稱する鬼形の者が家々を訪れて、家人をうつ俯しに臥させて、其上を躍り越え、家の中で「へんべをふむ」と言ふ。へんべ[#「へんべ」に傍線]は言ふ迄もなく反閇《ヘンバイ》である。此も春のまれびと[#「まれびと」に傍線]
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