て且、地方生活を固く結合した民間傳承の含む不明の原義を探ると、まれびと[#「まれびと」に傍線]の行動の微細な點までも考へることが出來るのである。
一一 精靈の誓約
まれびと[#「まれびと」に傍線]は、呪言を以てほかひ[#「ほかひ」に傍線]をすると共に、土地の精靈に誓言を迫つた。更に家屋によつて生ずる禍ひを防ぐ爲に、稜威に滿ちた力足を蹈んだ。其によつて地靈を抑壓しようとしたのだ。平安朝に於て陰陽道の擡頭と共に興り、武家の時代に威力を信ぜられることの深かつた「反閇《ヘンバイ》」は、實は支那渡來の方式ではなかつた。在來の傳承が、道教將來の方術の形式を取りこんだものに過ぎなかつたのだ。一部の「反閇《ヘンバイ》考」は、反閇《ヘンバイ》の支那傳來説を述べようとして、結局、漢土に原由のないものなることを證明した結果に達して居る。字面すら支那の文獻にないものであるとすれば、我が國固有の方術を言ふ所の、元來の日本語であつたのであらう。字は「反拜」などゝ書くのを見ても、支那式に見えて、實は據り處ない宛て字なることが知れる。まれびと[#「まれびと」に傍線]の力強い歩みは、自ら土地の精靈を慴伏
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