は「をかし」の役者は、田樂で言へばもどき[#「もどき」に傍線]に相當する者で、「牾き」と言ふ名義どほり、して方[#「して方」に傍線]の言語動作をまぜかへし、口眞似・身ぶりをして、ぢり/″\[#「ぢり/″\」に傍点]させながら、滑稽感を唆るものである。
此は疑ひもなく、我が國の原始状態の演劇に缺く事の出來ない要素であつた。して方[#「して方」に傍線]と此もどき狂言[#「もどき狂言」に傍線]との問答が、古い程重要で、此が輕んじられるに隨つて、わき役[#「わき役」に傍線]が獨立する樣になつたのである。神樂で言へば、人長に對する「才《サイ》の男《ヲ》」である。して方[#「して方」に傍線]にかうしたもどき[#「もどき」に傍線]の對立する訣は、日本の演劇が、かけあひ[#「かけあひ」に傍線]から出發してゐるからである。
此事は、既に詳しく述べた。つまりは、して方[#「して方」に傍線]は神、もどき[#「もどき」に傍線]は精靈であつた宗教儀式から出たからであるのだ。精靈が神に逆らひながら、遂に屈從する過程を實演して、其效果を以て一年間を祝福したのである。黒尉が狂言方の持ち役ときまつて居るのは、翁と三番叟
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