同じ意味から出たものであつた。
奈良朝以前は、各氏[#(ノ)]上――恐らくは氏々の神の神主の資格に於て――が、天子に「賀正事《ヨゴト》」を奏上することになつてゐた。賀正事《ヨゴト》は意義から出た宛て字で、壽詞《ヨゴト》と同じである。古い程、すべての氏々の賀正事《ヨゴト》を奏したのであらうが、後は漸く代表として一氏或は數氏から出るに止めた樣である。此も家長に對する家人としての禮を以て、天子に對したのである。だから、壽詞を奏することが、服從の意を明らかに示すことになつて居たとも見られる。
古代に於ける呪言《ヨゴト》は、必、其對象たる神・精靈の存在を豫定して居たものである。賀正事《ヨゴト》に影響せられる者は、天子の身體といふよりも、生き御靈[#「生き御靈」に傍線]であつたと見るのが適當である。天子の生き御靈[#「生き御靈」に傍線]の威力を信じて居たのは、敏達天皇紀十年閏二月|蝦夷綾糟《エミシアヤカス》等の盟ひの條に
[#ここから1字下げ]
泊瀬の中流に下り、三諸《ミモロ》[#(ノ)]岳に面し、水に漱ぎ、盟ひて曰はく……若し盟に違はば、天地の諸神、及び天皇の靈、臣が種を絶滅さむ。
[#ここで字
前へ
次へ
全92ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング