の名を傳へて居る。而も沖繩本島の西北の洋中にある伊平屋《イヘヤ》列島にも、古く此樂土の名を傳へてゐたことを思へば、偶發したものとは考へられない。まや[#「まや」に傍線]を沖繩語「猫」に用ゐるところから、猫の形をした神と考へて居る村もあるのは、却つて逆で、まやの國[#「まやの國」に傍線]から來た畜類と言ふ事なのであらう。蒲葵《クバ》の葉の簑笠で顏姿を隱し、杖を手にしたまやの神[#「まやの神」に傍線]・ともまやの神[#「ともまやの神」に傍線]の二體が、船に乘つて海岸の村に渡り來る。さうして家々の門を歴訪して、家人の畏怖して頭もえあげぬのを前にして、今年の農作關係の事、或は家人の心を引き立てる樣な詞を陳べて※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]る。さうした上で、又、洋上遙かに去る形をする。つまりは、初春の祝言を述べて歩くのである。
此は勿論、其村の擇ばれた若者が假裝した神なのである。村人の中、女及び成年式を經ない子供には絶對に知らせない祕密で、同時に状を知つた男たちでも、まやの神[#「まやの神」に傍線]來訪の瞬間は眞實の神と感じ、まやの神[#「まやの神」に傍線]自身も神としての自覺の上に
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