線]・なもみ[#「なもみ」に傍線]は、玄猪の「海鼠」と語原を一つにしたもので、おとづれ人[#「おとづれ人」に傍線]の名でなくば、其目的として懲らさうとする者の稱呼ではないかと思ふ。さうでなくば、尠くとも、我が古代の村々の、來向ふ春の祝言の必須文言であつたとだけは言はれよう。此妖怪、實は村の若い衆の假裝なのである。村の若者が人外の者に扮して、年頭の行事として、村の家々を歴訪すると言ふのは、どう言ふ意味であらうか。何にしても、不得要領なほと/\[#「ほと/\」に傍線]と同じ系統で、まだ其程に固定して居ないものだと言ふ事は知れる。
五 遠處の精靈
村から遠い處に居る靈的な者が、春の初めに、村人の間にある豫祝と教訓とを垂れる爲に來るのだ、と想像することは出來ぬだらうか。簑笠を著けた神、農作の初めに村及び家をおとづれる類例は、沖繩縣の八重山列島にもあちこちに行はれてゐる。
此おとづれ人[#「おとづれ人」に傍線]の名をまやの神[#「まやの神」に傍線]と言ふ。まや[#「まや」に傍線]は元來は國の名で、海のあなたにある樂土を表す語らしい。臺灣土民の中にも、阿里山蕃人は、神話の上に此樂土
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