ちに、古語が遺つてゐると言ふ事に注意をし出しまして、それで、言葉を発見する事を喜んでをります。併し、さう言ふ態度、譬へば、本居宣長や鈴木重胤等の態度を見ますと言ふと、方言を非常に憐なものと見てゐる。自分等の使つてゐるものは、非常に憐なものと見てをつて、それが昔の、貴族みたいな古い言葉と合つてゐたり、古い言葉を証明するに足りるとは、望外の光栄だ、非常に有難い事だと言ふ風に、感謝するやうな気持で、方言を見てゐる。だから、我々が方言を見る態度とは違つてゐる。つまり、未だ学問的の価値が本当には定つてをらず、これから我々の使ひ方で、愈々価値を増して来る筈のものである、それが近代語であると共に古語でもあり得る、と言ふのが方言です。さう言ふものをば、国語の研究に流用するやうにして行くと言ふんですから、大分態度が違つて来て居る訣です。

     二 言語伝承

けれども第一に考へなければならぬ事は、我々の言葉と言ふものは、結局お蕎麦を拵へる時のつなぎ[#「つなぎ」に傍線]みたいなものでせう。我々の思想と言ふものをば保管する為の、一つの機関に過ぎない。だから同時にその言語と言ふ機関がなければ、我々の思
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