寝もしなん」であらう、と言つてさう直してゐる本もありますけれども、もつての外の事です。「ひじきもの」は敷物の事を言つたので、今で言へばねこぶく[#「ねこぶく」に傍線]と言つたものです。私を思ふ思ひがあつたならば、こんな賤しい葎の宿に来て寝もしませう、と言ふのでせう。寝道具がなければ構はない、妾の袖を敷き物として寝ませうと言ふのでせう。これで理窟は合つてゐるんだが、変てこな歌ですね。昔の人だつて、やはり不合理な事をやつてゐるのですから、百年二百年経つたつて、やはり我々にも不合理に感ぜられる。第一に感ぜられる事は、その「思ひ」と言ふ事で、物忌みに籠つてゐる事を、おもひ[#「おもひ」に傍線]と言ひます。忌月の事をおもひづき[#「おもひづき」に傍線]と言ひます。天子様の諒闇の事をみものおもひ[#「みものおもひ」に傍線]と言ひます。又心の中で思つてゐる女の事をおもひづま[#「おもひづま」に傍線]と言ひます。つまり、おもひ[#「おもひ」に傍線]と言ふのは、昔の日本語では、謹慎生活、禁慾生活に籠つてぢつとしてゐる、と言ふ意味を持つてをつた。それは訣る。更に考へて見ると、ひじきもの[#「ひじきもの」に
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