なるのです。これはお名前の様にも思へますが、古事記や日本紀を御覧になると、大和の宮廷の時分、天子様のお名前の上に、日本根子《ヤマトネコ》何々の天皇と言ふ風に出てゐる事に気がつきませう。さう言ふ定つたものがあつて、それを嵌めれば、昔の祝詞と同じ効力を持つて来る。だから、一つの新しい言葉に、昔の祝詞と同じやうな事柄を持たせる為には、古くからある、あゝ言ふ言葉を嵌めて行くと言ふ事が必要だつたのです。だから、換へる部分が少くて、古いまゝ入れて置く処が多かつたのです。それが時代が下る程、新しい部分が殖えて来て、形式的に入れる部分が少くなつてゐるのです。何故そんな事が言へるかと言ふと、極く、新しい事でも訣つてをります。大祓の祝詞と言ふものですが、これも省略するのと大凡三通り程あります。つまり、大祓の祝詞をば、長いまゝで言ふのを、地方で極く、短く節約して言ふので、三通り程あります。さう言ふ風に、どんなに短くしても、急所さへ失はなければいゝのです。
それから、私共若い時は、よく擬古文を作らされたものですが、今の若い人なんか、擬古文なんか作りませんが、今日聞いてをつて下さる方々は、大抵、大なり小なりお作
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