が、それは悪い。唯、昔の人は、その時始つて以後行はれてゐたと考へた、と見て差支へありません。
つまり、倒歌諷語と言ふのは、さう言ふ合言葉みたいなもので、相手がうつかり真似をすると、相手に呪ひが行くと言ふやうなものでせう。合言葉と言へば言へますが、これに多少謎の匂ひがかゝつてをりますが、謎とは言ひ切れません。だから、昔の人のものゝ言ひ方と言ふものは、自分一人で表現してゐて、自分一人で解釈の表現をするとか、思想を述べるとか言ふ事がございます。さう言ふ事はあり勝ちの事です。あり勝ちの事ですけれども、実際の現象ではない。さう言ふ現象は昔から伝つてをつた型の定つた現象をば、だん/\変形させつゝ、附け足し/\して伝へて来たに過ぎないのです。其一番最初として申しますと、譬へば我々の考へてゐる祝詞のやうなものです。
祝詞のやうなもので非常に古いものが昔ありました。それがだん/\伝へられてゐる中に、目的が分化して来て、色々な祝詞が出来て来ました。それでも、まあ数は少かつた。ところが世の中が進んで来ると言ふと、今度はもつと沢山祝詞を拵へなければならぬ。それで祝詞の新作と言ふ事が行はれます。すると、どう言ふ
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