々な禍をするので、倒歌諷語をもつて御自分達の軍隊を指導して行かれた。すると相手が真似をすれば、相手にはその言葉の通りの効果が現れ、自分が言へば、その言葉の逆の事柄が現れて来ると言ふ、かう言ふ言葉でせう。つまり、相手が言へばその通りの効果が出て、相手は呪はれると言ふ言葉でせう。大抵、昔の言葉には、無条件に言つていゝ言葉と、言つてならない言葉が沢山あつたに違ひない。で、倒歌諷語と言ふものが、果してあつたか、なかつたか訣らぬけれども、神武天皇が大和に入国せられた時、世の中に、かう言ふものがあつたと、後世の人が謎としてゐるのでせう。その謎としてゐる言葉と言ふものが倒歌諷語なんです。兎に角、神武天皇が大和に這入られた事は事実なのですけれども、こまかい事は後世の嘘や想像が、沢山這入つてをりませう。倒歌諷語があつたと言ふ事も、後世にもあつたことで、これが神武天皇の時に始つたと言ふ考へを持つてをつた、とかう思つてよからうと思つてをります。つまり、昔の人の歴史観は、始めて言ひ出したとは、その時起つた事を意味してゐます。今の学者でも、この事件が天皇のこの時にあるので、謎がこの時に起つたと考へる人もあります
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