のではない、言へない事はないのですけれど、改つた言ひ方をするのを恥ぢて、わざ/\言葉の形を枉げて使つてゐるのです。
横浜の港が盛んな時には――神戸あたりもさうですけれども、りんがふらんか[#「りんがふらんか」に傍線]と言つて聞き違へて使つたり、発音を間違へて使つたり、又、文字から来る誤りの言葉を使つたりする事がはやりました。兎に角、聞き違へて西洋人の言つた事を言つてゐるのですが、併し、聞き違へが余り沢山の人の耳を通してくると、かう言ふことはやめられないと言ふ、弱点もあるのですね。つまり、聞き違へが、国語に持ち来たされてくるのです。犬のことをかめ[#「かめ」に傍線]と言つたりしますが、これは誤解に定つてゐる。「カム」「カム」と言うて呼んでゐるのをかめ[#「かめ」に傍線]、かめ[#「かめ」に傍線]と聞いてかめ[#「かめ」に傍線]と言ふ名で洋犬を呼ぶんだと言ふやうになつた。さう言ふやうに思ひ違ひもあるけれども、又りもなあで[#「りもなあで」に傍線]をらむね[#「らむね」に傍線]と言ふ例もあります。りもなあで[#「りもなあで」に傍線]とらむね[#「らむね」に傍線]とでは文字で見るとよつぽど違ひ
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