の上で出来るだけ深めてゐると言ふ事は悪いとは思ひませんけれども、造語能力が減退すると言ふ事は、もつといけない事なのです。
これを逆にもつと申しますと、田舎の、ものを知らぬ人々は、――尤も、まるきりものを知らぬと言ふ人は、今では殆ど、なくなつたけれども、兎に角、自分が有識階級でないと言ふ事を知つてゐる連衆《レンジユウ》と言ふものは、気取つた物言ひと言ふ事をしません。だから、方言を見ますと言ふと、一寸漢語がゝつたもの、外国語がゝつた言葉は、何処か必ず、曲つてゐる。知識が浅いから、自然曲つて来るものが沢山ありますが、自分は知識階級ではない、無識階級だと言ふ事を標榜してゐる言葉が沢山あります。我々がはじめ痛感したのは、旅順港が落ちるか落ちないかゞ問題になつてゐた時分、その時分は私共の中学時代ですが、旅順港と言ふ事を言へる人々も、わざ/\じよじゆん[#「じよじゆん」に傍線]港などゝ言つてをりました。それを言へない連衆なんかは旅順の上にまう一つくつ附けて、どでん[#「どでん」に傍線]港なんて言うてゐました。話をしてるから訣りますけれども、話がなかつたならば訣らない。これは旅順港と言ふ言葉が言へない
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