ばならぬ。形として掴む事も出来なければ、物体にも記録にもなつてゐない、言葉にもなつてゐないやうな心意の現象があると、さう言ふ事を言はれてをりますが、さう言ふものゝ伝承、仮に、心意伝承と名前を付けて置きます。この分け方にも、だん/\議論が出て来ますし、まう少し小さい分類は、私もしてをりますけれども、この場合はこれだけに止めてよからうと思ひます。此処では言葉を以つてする伝承、言語伝承と言ふものに就いて申上げて行きます。
私共が口の上で扱つてゐるものが、総べて国語だと、かう見ていゝと思ひますが、まう少し、生命をもつて、と言ふ風に、それに附け加へて置いた方がいゝかも知れません。だから我々が口で言つてをつても、教場なんかで喋つてゐるやうな外国語と言ふものは、死んでゐるんですから、国語ではないのです。同時に、外国人と話をするとき使つてゐる言葉は、我々の本当の生活ではないのですから、つまり一種の変態の生活なのですから、まう少し上手に言つた方がいゝかも知れませんけれども、兎も角も、一時の現象なのですから、生きた生活とは言へません。その他に、我々が普通の日本語を以て意志を発表してゐる時、その間にはさんで
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