もしる君」に傍線]・おもしる妹[#「おもしる妹」に傍線]など言ふ「おもしる」の形容詞化したものと考へるのが正しからう。「おもしる」は顔を知つてゐるだけではなく、「なぢみ深い」とか、「なつかしい」とか言ふ事らしい。万葉巻十六の竹取翁の長歌には、「おもしろみ」と「なつかしみ」が対になつてゐる。「おもしろし」も天[#(ノ)]窟戸の物語に、神々の面の著しく明るくなつた事から、あな面白だなど言ふのは、たゞの物語で、語原・意義は別である。「なぢみ深く髣髴著《オモシル》く浮べ得る」と言ふだけの内容はあつたのであらう。
をば[#「をば」に傍線]は、唯の「をば」ではない。「を」と言ふてにをは[#「てにをは」に傍線]すら、古くは、目的格の指辞ではなく、「……よ。其を」「……よ。其に」と言ふ風の感動語尾であつた。其上の語句に、次第に目的格の意識が出て来たので、「を」は目的格を定めるものと考へられて来たのだ。「をば」は殊に、其義を長く失はなかつた語《ことば》で、目的指辞「を[#「を」に傍点]」に「をば」を代へる風は、容易に出ては来なかつたのである。「ば[#「ば」に傍点]」は強い感動語尾であるから、「をば」は、
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