を見ると、いとゞしく[#「いとゞしく」に傍線]もいとゞ[#「いとゞ」に傍線]も、「さうではなくとも、かう/\だのに一層……」といふ意味に使つて居る。つまり、いとゞしく[#「いとゞしく」に傍線]が、文章のたゞ一ヶ所に関係を結んでゐるだけでなく、一ヶ所以上に関係がある。
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年を経て、住みこし里をいでゝいなば、いとゞ深草野とやなりなん(伊勢物語)
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の歌でみても、「さうでなくても草の深いところだのに……」といとゞ[#「いとゞ」に傍線]は深草に関係し、同時に「いとゞ野とやなりなん」にも係つて居る。かういふ風に、副詞の中には、両頭を持つたものがある。源氏物語の中でも「もとより荒れたる宮のうち、いとゞ狐のすみかになりて……」(蓬生)初手から荒れてゐた常陸の宮のお邸が、その後、一層ひどく荒れたことを言ふところだ。即ち、「さうでなくてすらも荒れてゐたお宮のうちが、一層ひどく……」で、この場合のいとゞ[#「いとゞ」に傍線]は、「荒れたる」に関係を持ち、同時に、文法的に言へばなり[#「なり」に傍線](すみかになり)に係つてゆく。いくらでも例はあげられるが、とに
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