して出発せしめて来たのである。平安朝の言語の、美しく見える必然性はあるが、平安朝以外にも、それ/″\言語の美しい時代は勿論あつた訣である。奈良朝にも、美しい型の出て来てゐるものが見られる。ともかくも内裏語といふものが、前代以来だん/\完成に近づいて来た時であるから、その時代に日本語の、古くから特徴を持つてゐた副詞が発達して来るのは、訣ると思ふ。形容詞には、発達せぬ理由があつた。つまり、副詞とあり[#「あり」に傍線]とで形容詞を作つて居り、言はゞ大きな形容詞句を作つて居つたのだ。だから副詞が発達したのは、その句から独立してゆくのであるから、同時に形容詞が発達したのと同じことになる。その証明として、最後にもう一つだけ例を挙げて置く。
いとゞ[#「いとゞ」に傍線]といふ語は非常に特徴のある語であるが――。
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いとゞしく過ぎゆく方の恋しきに、うらやましくもかへる波かな(伊勢物語)
[#ここで字下げ終わり]
いとゞしく[#「いとゞしく」に傍線](同時にいとゞ[#「いとゞ」に傍線]も)はひどく[#「ひどく」に傍線]といふのではない。「一層ひどく」である。ところが、実際の用語例
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