傍線]で済まして居る。切つて了ふと言ひ残しがある訣だから、反動的な詠歎的な気持が出て来る。だから、之をないのに[#「ないのに」に傍線]と訳すのは邪道ではなくとも、まづい解釈で、ないことよ[#「ないことよ」に傍線]と言ふのが本道である。既に万葉集でも、それがあつて、「おのがゆく道は行かずて、呼ばなくに、門に到りぬ……」(巻九)などは、「呼ばないのに」と訳すより仕方のない使ひ方だ。門に到りぬに続いてゐるのだから、「呼ばないことよ」と切れる筈のところではない。他にも同じやうな例があつて、とにかく、集中でもう変化を見せて居る。
かういふ変化は、を[#「を」に傍線]にも見られる。本来感動の助詞であるが、逆の場合の感動、即ち、のに[#「のに」に傍線]といふべき所へ、を[#「を」に傍線]をつけて「……であるにも拘らず……」とはね返る様な意味の使ひ方をして居り、場合によると「ゆく人をば[#「をば」に傍線]恋しく思ふ」といふ風な、客語の語尾にも使つて来て居るのがある。とにかく、言葉といふものは、切れてゐると思ふと、次の語に続いてゐて、感じでゆく、といふ習慣のあるものだ。なくに[#「なくに」に傍線]もあり
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