る。「いたく……なり」といふ副詞があつて、その経験を積んで来ると、中間を省いて、いたしや[#「いたしや」に傍線]などとだけ言ふ様になる。「いたく……である」の略であるが、いたし[#「いたし」に傍線]が、ほゞ其基礎になつてゐるので、いたしや[#「いたしや」に傍線]に戻つてくる訣だ。形容詞の活用では、終止形の成立は却て遅く、最初は、副詞の形のく[#「く」に傍線]・しく[#「しく」に傍線]が出て、之から次第に発達したものらしい。我々の持つて居る形容詞が、何時の間にか、今の活用形を持つたものだけを、さう言ふやうになつて、形も整頓されて了つた。併し、あり[#「あり」に傍線]を含んだ「とあり・くあり・たり・なり・かり」などを形容詞と称してゐる人もあつて、之は便宜上さう呼んでゐる訣であるが、意味に於いては変りない。即ち、昔の形容詞では、副詞の形で、其下にあり[#「あり」に傍線]があり、其中間に言葉を挿んで来るもの、「――く……あり」の形が、完全な形容詞の形であつたのだ。たゞ其中間に挿入する言葉は複雑なものを入れて来る。かやうにして、形容詞句が出来るのだが、之が日本の形容詞の始まり、やがて、く[#「く
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