たて[#「うたて」に傍線]の場合と同じである。それだけで、すべての心の過程を示すのである。結局、あさまし[#「あさまし」に傍線]は後世は非常に一方に傾いた言葉になる。あさましく[#「あさましく」に傍線]に軽蔑の意味を感じて来るのは、あさ[#「あさ」に傍線]の一語によるのだと思ふ。

       九

もつと訣り易い例に、わりなし[#「わりなし」に傍線]がある。是はことわりなし[#「ことわりなし」に傍線]と同じで、説明する事が出来ぬ、名状し難い、言ひ表はし得ない、などの意に使つて居るが、之も亦、もとは「わりなく……なり」といふのを、わりなし[#「わりなし」に傍線]の一句で代表させて来たのだ。説明の出来ぬのは、無暗やたらなのであるから、わりなし[#「わりなし」に傍線]と言へば直ぐに、無暗やたらだ、の意になつて来る。で始めからわりなし[#「わりなし」に傍線]が独立してゐた言葉の様に考へるのは誤りである。無理な、自分勝手な使ひ方は出来ぬ訣だけれども、皆が使つてゐる中には自分達の聯想を出来るだけ入れて、お終ひには割る事が出来ぬなどと感じてもくる。或は亦、いたく[#「いたく」に傍線]といふ例があ
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