もち」に傍線]が夙く消えて了つた。天子の御ことをすめらみこと[#「すめらみこと」に傍線]と申上げるのは、すめらみこともち[#「すめらみこともち」に傍線]の略である。すめら[#「すめら」に傍線]は絶対的尊敬の語で、之も後には天子に関することにだけ固定する。がとにかく、此みこと[#「みこと」に傍線]が単に尊い人に使ふといふだけの意になると、だん/\下つて来て、貴族の家でも母のみこと[#「母のみこと」に傍線]、兄のみこと[#「兄のみこと」に傍線]などと使つてくる。之等は形式だけの尊敬である。かうした略語は非常に多いと思はねばならぬ。

大体、古代の書物では、言葉の興味といふものが、其書物によつて違つてゐる。記・紀・万葉・風土記など、それ/″\に、其伝承してゐる語彙の関係か、言葉の好みが違つてゐる様だ。我々でも慣れてくれば、之は古事記の言葉、之は万葉の言葉といふ風なことが感ぜられて来る程である。こゝに例に採つて見たいうたて[#「うたて」に傍線]などは、我々の普通の考へでは、平凡な感じのする言葉であるが、記にも万葉にも出てくる。古事記には二ヶ所出て来る様で、古訓には二ヶ所ともさう訓んでゐるけれど
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