の上に、其土地の美しい地名を詠み込んで来る。悠紀・主基に卜定せられた国の郡の中で、特別に音のいゝ、美しい聯想を起しさうな地名を、後には書き遺して居る。之を仮に注進風土記などと名づけて居るが、之等を見ると、悠紀・主基の、美しい豊かな聯想を抱かせるくらしっく[#「くらしっく」に傍線]な地名が並んで居る。其を歌に詠み込んだのだ。歌に詠み込む為に、さうした風土記を献らしめた訣で、謂はゞ、悠紀・主基の歌を作る種である。かうなると、我々の実生活とは関係が無くなるが、そこまでゆかぬうちに、既に、我々と関係深い言葉の中に、文学語を多く入れてゐる。文学語を好む気持で、文献に遺し、さうした語の中から取り上げて文章を綴つて行つたのである。かやうにして言語を選ぶ能力が進んで行き、結局、注進風土記を作り上げたといふ事になる。とにかく言語の中に霊的な、神聖な、香の高い、昔風の懐しい、心の緊きしまる様な、色好みの豊かな感覚を起させる言葉を織り込んでゆく事が多かつた。之が当代の歌言葉の非常に少なかつた理由である。
七
語原論の中には、どうかすると忘れられてゐる部分がたつた一つある。其は略語である。古
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