采女と舎人とであつた。此時の歌は、新作ではなくして、自分の地方々々の歌を出して、神に献じた。この歌を国風《クニブリ》と言ふ。新しく、宮廷に服従を誓ふ意味のもので、毎年初春に、服従を新しくしたのである。
ところが、其前から、世間では、歌合せの元の形と見るべきものが、行はれてゐた。歌垣・歌論義など言ふものが、其である。其方式を、次第に取り込んで、御歌会に、歌を闘はせる事になつて、歌合せが出来て来た。
国々には、国々を自由にする魂があつた。国々の実権を握る不思議な魂即、威霊《マナア》があり、其がつくと、其土地の実権を握る力を得る。
地方々々に伝承する歌には、其魂が這入つてゐて、其を歌ひかけられると、其人に新な威力が生ずる。采女・舎人が国風の歌を奉ると、天皇に威霊が著いたのである。そこで、歌を献じた地方は、天皇に服従する事になるのである。
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さゞなみの国つ御神のうらさびて 荒れたるみやこ 見ればかなしも(万葉巻一)
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近江[#(ノ)]国の御神の心が荒んで、近江宮廷が、こんなに荒れたのだらう、と説いてゐる――山田孝雄氏に、別解がある――が、此は、魂の
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