事の中にも、神道の古代精神を、見出さなければならない。此は神道そのものゝ為ばかりではなく、日本人の生活に、まう一度、新しい興奮を持ち来す為でもある。
今の世がよくない、とは思はないが、糜爛し切つてゐる事は、事実である。其には、文芸復興によつて、清新な気持ちを吹き込まなければならない。十年前に、万葉熱の起つたのは、その先触れと見る事が出来る。今は、万葉ぶりを標榜しながら、新しい精神のない時代に這入つてゐる。此処に、おぞん[#「おぞん」に傍線]が必要となる。海の彼方、常世国から、遠く高天原から、青い/\空気を、吸ひ込まなければならない。

     一三 国民性の基礎

明治以後、安直な学問が栄えたが、もつと本式に腰を据ゑて、根本的に、古代精神の起つて来るところを研究して、古代の論理を尋ねて来る必要がある。其が、日本の国民性の起りである。芳賀先生の「国民性十論」以来、日本の国民性と言へば、よい処ばかりを並べてゐるが、事実はよい事のみではない。もつと根本に溯つて、国民性の起つて来る、周囲の法則・民族性の論理、即、古代論理の立て方を、究めなければならない。此処から、国民性も起つて来るのである。
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