もので、半熟である。今の中に、まう一度、訂正することなしに、捨てゝ置いたならば、古代精神を閃めかしてゐる、国中の古い民俗が、次第に亡びて行つて了ふに違ひない。幸に日本は、他の国に較べて、確かに、非常に古い精神を遺してゐる。物忘れをしないのか、頑固なのか、古い生活を、近代風に飜訳しながら、元の形を遺してゐる。陰陽道にも、仏教・儒教にも妥協しながら、新しい形の中に、古いものを遺してゐる。
譬へば、盆の精霊棚は、仏教のものではなく、神道固有のものに、仏教を多少取り入れたものである。又七夕も、奈良朝以前に、支那の陰陽道の乞巧奠の信仰、即、星まつりの形式の這入つたものだ、と思はれてゐるが、ほんとうは、日本固有のものである。其が、後に迄伝つたのは、陰陽道の星まつりの形式と、合体した為である。表面だけを見て、俗神道だ、仏教的だ、など言うてゐてはならない。
神道家の中には、陰陽師・法印・山伏しなどで、明治に這入つて、神官となつたものがある。三四十年の間に、神道の形が出来たのであつて、其処には、陰陽道・仏教・儒教等への変な妥協や、欠陥があるに違ひない。其を指摘し、更に今までの法印や、陰陽師等のやつてゐた
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