の佞武多《ネブタ》祭りも、夜業の敵なる睡魔を祓へる式だとせられて居る。熟睡を戒しめる必要のなくなつた為に、さうした解釈をして、大昔の祖先からの戒しめを、無意味に守つて居るのである。此「眠り流し」の風も元は、船に積む形を採つた事と思はれる。

     四 蚤の浄土

而も、まだ海河に祓へ捐つべき物が、臥し処には居る。其は牀虫の類で、蚤を以て代表させて居る。おなじ奥州仙台附近には「蚤の船」と言ふ草がある。節分の夜(?)に、其葉を寝牀の下に敷いて寝れば、蚤は其葉に乗つて去ると伝へてゐるよしを谷川磐雄氏から聞いた。さて、其牀虫は「蚤の船」に便乗して、どこへ流れて行くのか。縁もゆかりもなさ相な琉球本島では、初夏になると、蚤は麦稈の船に乗つて、麦稈の竿をさして、にらいかない[#「にらいかない」に傍線]からやつて来ると言ひ「にらいかない[#「にらいかない」に傍線]へ去つて了へ」と言うて蚤を払ふ。にらいかない[#「にらいかない」に傍線]の説明が私どもの祖先の考へて居たとこよの国[#「とこよの国」に傍線]と近よつて来るのである。
にらいかない[#「にらいかない」に傍線]と言ふのは、海の彼方の理想の国土
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