洗へば獏の符なのであつた。更に原形に溯つて見ると、単に夢を祓ふ為ではなかつたらう。神聖なる霊の居処と見られた臥し処に堆積した有形無形数々の畏るべき物・忌むべき物・穢はしい物を、物に托して捐《す》てゝ、心すがしい霊のおちつき場所をつくる為である。(臥し処・居処を其人の人格の一部と見たり、其を神聖視する信仰は、古代は勿論近世までもあつた。)
此風習の起りの一部分は、確かに上流にある。上から下に船の画を与へる様子は、大祓その儘である。穢れた部分全体を托するものとして「形代」と言ふ物が用ゐられた。此で群臣の身を撫でさせたのを、とり集めて水に流したのが、大祓の式の一等衰へた時代の姿であつた。此船の画は、とりも直さず大祓式の分岐したものなる事は、其行ふ日からしても知れる。其上、尚、大殿祭《オホトノホカヒ》に似た意味も含まれてゐる。其家屋に住み、出入りする者に負せた一種の課役のやうなものである。其等の無事息災よりも、まづ其人々の宗教的罪悪(主として触穢《ソクヱ》)の為に、主人の身上家屋に禍ひの及ばない様にするのであつた。此風が陰陽師《オンミヤウジ》等の手にも移つたものと見えて、形代に種類が出来て、禊
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