。其は他人の想像では訣らぬ所です。うつかりすると、どんな目に会はされるか訣らぬ。其巫女のいふ通りに皆が動くので、下手な事を言へば殺されるかも知れないのであります。そして殺されゝば、痕跡も止めないやうな事になつてしまふのです。全体さういふ女の夫になるものは、神の呪ひに依つて、早く死ぬといふので、巫女の夫になるといふ事は非常に嫌ひます。其外、寡婦の巫女、其から亭主を持ちながら祭りの時だけ処女の生活をする巫女と、かう三つあるのです。

     三

日本内地でも奈良朝、或は其以前にさういふ事があつたと、断言出来る程の証拠があります。さういふ生活が、皆ほんとうに美しい恋物語になつて、後世に伝はつたのです。現在の吾々のみならず、既に万葉時代の人ですら、其がほんとうの事実で、さういふ生活を祖先がして居つたと信じて居たのです。併しそれは、神に仕へる処女の場合だけで、そして其処女は何もほんとうの貞操、純粋の人間としての貞操の観念から起る処女といふのでなく、神に対しての物忌みから出て居ると言ふ事を考へなければならぬ。
其にもう一つは、譬へば……深入りする様でありますが、女の人が元服をする。男の人と同じ
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