つたのが、段々、普通に使はれるやうになつたものであらう。
此に対して、国は、天皇に半分服従し、半分独立してゐる処であつた。絶対に服従してゐるといふのは、神世からの極少数で、他は皆、天子の国と、即かず離れずの関係にあつた。
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おしてるや難波の崎よ。出で立ちて、わが国見れば……
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といふ仁徳天皇の御歌の国も、うつかりすると、大和と見えるが、此は、部下の国を見、部下の国を褒める言葉である。自分の国をいふ島なる語が、段々変化して、普通に用ゐられなくなり、且宮廷に属してゐる地方が、皆国だから、宮廷のある所まで、国といふやうになつたのである。かうなると、我々は、正当に使つた島といふ言葉があると、何か異様に感じて、水を廻らした島、といふ古い言葉が転じて、国の一区劃をも云ふやうになつた、と云はねば収まらなくなる。此は口頭伝承の、国語に移つてゆくにつれて、起る変化である。

     五

古事記のにゝぎ[#「にゝぎ」に傍線]の命天降りの段に、うきじまりそりたゝして[#「うきじまりそりたゝして」に傍線]といふ言葉があるが、これは、何の意味か訣らない。日本紀に
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