の言語には其表象能力を備へないものが往々ある。其等の内容を現すに、一々新語を造ることの出来ないわれ/\は、古人が用ゐ慣し而もわれ/\の祖先の生活内容が、一度は盛られて来たことのある言語を用ゐる事に対して、いひ知らぬ誇りと権利とを感じるのである。けれども単に其だけで以て、古語・死語の復活に努めてゐるのでない。われ/\は此内容を盛るに最適切な形式を、各時代の語彙の中から求め出さうと思ふのである。
われ/\の古語・死語をば復活せしめようと努めるのは、単なる憬古癖を満足せしめる為にするのだと思うてはならぬ。われ/\は骨董品に籠つてゐる、幾百年の黴の匂ひを懐しまうとする者ではない。われ/\の霊は、往々住すべき家を尋ねあてることが出来なくて、よすがなくさまようてゐることがある。其霊の入るべき殻があるとさへ聞けば、譬ひ幾重の地層の下からでも、其を掘り出さずにはゐられないではないか。妄りに今を信ずる人々よ。おん身らは自己を表現するに忠ならざるより、安じて放言してゐる。現在のわれ/\の生活は、現在のわれ/\の生きた語によつてのみ表されると。併しわれらの生命の律動には、我々の常に口にする語ばかりに、宿しき
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