てしたいと思ふ。勿論自分は、今評釈をするつもりは毛頭ない。

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ながめつゝまたはと思ふ雲の色をたが夕ぐれと君たのむらむ(定家――玉葉)
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□ながむといふ語は、日本語の中でも、最も洗煉せられた詩味の豊かな言語である。今日の口語では、「眺《チヨウ》」の意味一つであるが、中古文には、そればかりではあてはまらぬことが多いので、これに詠の字をあてゝ見たのもあるけれど、ながむ[#「ながむ」に傍点]といふ語の内容は、決してそんな単純なものでないことは、諸君も業《スデ》に承知のことゝ思ふが、この語は、大体に、二つの違つた意味を包含して居るので、その間に生じたものはさておいて、この二つについていうて見ると、やはり「眺」の意のものと、「おぼめく」意のものとに分れる。「眺」の方は、む[#「む」に白丸傍点]といふ音に「見」の意があるらしく、「おぼめく」方には、「なが」に似寄つた「なげく」の意がほのかに伺はれる。「なげく」と「ながむ」との如き形式は、同意義の語に屡ある類似である。すなはち、この方は、心にある結ぼれたところがあるので、解剖して見ると、「眺」の意のものと
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