、やゝ論理一遍に傾くが、「じもの」の出来る道筋も知れる様だ。
「じもの」の慣用の最少いものは、記・紀である。その中、
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あをによし 奈良のはざまに、斯々弐暮能《シヽジモノ》 みづくへこもり、みなそゝぐ 鮪の若子《ワクゴ》を あさり出《ヅ》な。ゐのこ(武烈紀)
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此「しゝじもの」の用例は、他の枕詞の「しゝじもの」と余程違うてゐる様に見える。此「しゝじもの」を「みづく[#「みづく」に傍線]へこもり[#「こもり」に傍線]」の、どの部分かにかゝつてゐるやうに、説くのは苦しい。其なら寧、句を隔てゝゐるが、「しゝじもの……あさり出《ヅ》な。猪の子」と説けばよい。さう考へると、「をのこじもの」と幾分形が似て来るので、比喩とは遠ざかる。私は一体此「じもの」が歌謡にとり入れられた原因を寧、歌謡その物以外にある、と見て来てゐる。即、歌謡の歴史上において、呪詞(寿詞・祝詞)の古い様式を、長歌が率先してとり入れる様になつた飛鳥・藤原時代から盛んになつたものと見てゐる。此件については別に書いたものがある。此処には其をくり返す繁雑を避けさせて頂く。たとへば、可なり新し
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