り必要な件をまだ後廻しにしてゐる。
所謂一類の枕詞の語尾と考へられて来てゐる、「じもの」と言ふ形である。此亦既に述べた「じ(否定)何」「らし何」と同じ発生を有するものである。尚言へば、すべての形容詞語尾は、「しもの」の過程を含んで来たもの、と考へられさへするのであつた。さうして、仮りに様々な「し何」の形を綜合すると、「しもの」と言ふ形に帰一するのは明らかだ。
若《もし》、形式論をつきつめて行くとすれば、「あなにやし えをとこ」「やすみしゝ 大君」などの古い例さへ、「あなにや えをとこ」「やすみし 大君」から更に、領格的用語例の意識を、生じずに居る訣はない。「あなにやの えをとこ」「やすみしの 大君」と言ふ意識を含んでゐない、と誰が言へよう。一方更に進んでは、「や」「ら」「か」「な」などが、すべて体言化する語尾の用をなす如く、こゝにも「……なる物……」「……物……」と謂つた感覚を以て受け入れたと考へられなからうか。
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わが待つもの [#「 」に「ナル」の注記]鴫はさやらず、いすくはし [#「 」に「モノ」の注記]くちらさやる
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と思うて来ると
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