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なこひそ吾妹 かづらせ吾妹
ひもとけ吾妹
命死なまし甲斐の黒駒
そこし恨之(?)秋山われは
つかへ奉れる貴之見れば
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と言ふ様な形ならば、呼格として意味は明らかである。
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あひ見ずて、日《ケ》ながくなりぬ。このごろはいかに好去哉《ヨケクヤ?》 いぶかし。吾妹(万葉巻四)
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の如きは、既に一面呼格であり乍ら、「なつかしき吾兄」といつた意義から差別がつきにくゝなつてゐる。此が一段前の形は、その不即不離の状態が明らかでない多くの例に現れてゐる。つまり、普通呼格の上に形容詞がある時、其が総て、文章成分の顛倒したものと解せられて来てゐるが、実はさうなつて来るまでの過程に「なつかし吾兄」が「吾兄なつかし」の気分的表現でなく、「なつかしき吾兄」の意義を持つた時代があつたのである。つまり、さうした文章上の事実が、実は句或は単語に於ける形式の延長であつたのだ。私は唯この点に、尚幾多の疑問は持つてゐるが、併し乍ら、形容詞の終止形「し」の形が、語根から屈折を生じて独立したと言ふ事の原因には、さうした連体句が倒置せら
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