に自由な屈折が、所謂総ての活段を意識せしめるまでにくり返されたものと見てゐた。さうして此は、尠くとも動詞に於いては真理である。今におき、この考へを私は変へる必要を認めてゐない。だが、其と共に私は、形容詞の成立にも、同じ原因のあるもの、と考へたのであつた。だが、その為には、幾歩を譲るとしても、形容詞語尾「し」を意識する為には、或種の事情を共通した「s」音で終る語根のあつたその理由を知らなければならない。其と共に、動詞の場合に稀に「i」音で屈折するのがあるにしても、多くは「u」音であるに拘らず、形容詞に於いては「i」音である訣と、「i」音がどうして附着して来たかの説明がいる訣である。処が我々には、まだ理会せられない所の或法則的に用ゐられる「し」がある。
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イ、とこしへ  かたしへ
  いにしへ
ロ、いまし(く) けたし(く)
  しまし(く)
ハ、やすみしゝ  いよしたゝしゝ
  あそばしゝ
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此等の「し」に就いて、或ものは所謂接尾語、或は緊張辞、と言ふ風に説明して行けるであらう。併しながら其は、文法的の分類でなくて、修辞的の区劃である。このう
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