ら2字下げ]
ますら雄のさつ矢たばさみ|立ち向ひ《イ・むかひたち》|射る《イ・いるや》円方《まとかた》は見るにさやけし(万葉巻一、六一)
[#ここで字下げ終わり]
「伊勢風土記逸文」では、序歌の契機点に「や」を挿んで、緩衝してゐる。かう言ふ風に、言ひ改められるのは、理由のあることで、「に」「の」「も」「なす」など言ふ辞を挿むのは、序歌としては、第二義に属するものと言ふことが出来る。序歌の場合は、上の句を譬喩化(或は類音化)して、意義を転換させるのだが、其と共にさうした挿入辞によつて、つき放し[#「つき放し」に傍点]てゐる。ところが、前の場合は、挿入した辞によつて、前句を固定させると共に、後句と接続させる[#「接続させる」に傍点]様になつた。即、「あなにやし」「よしゑやし」「はしけやし」「やすみしゝ」「いよしたゝしゝ」などの、比較的短い語を繋ぐ用途の、意識せられてゐた「し」が、割り込んで来る事になつたものと見られる。かうして見ると、我々は古文献に見える「し」について、考へ直す必要が生じる。
奈良朝の古典で、而も其前代の言語伝承を筆録した部分の含まれてゐる多くの詞章に現れて来る、此類の「し
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