」についてゞある。今泉忠義君は、既に「助動詞き[#「き」に傍線]の活用形し[#「し」に傍線]の考へ」(昭和五年十月号国学院雑誌)と言ふ論文で、過去の「し」の用例の記・紀の歌謡に現れた分を整理して、其成立を考へようとして居る。さうして其が、代名詞「其《シ》」であらうと言ふ仮定に達してゐる。可なり暗示に富んだ優れた考へである。私としては、其同じ用例を反覆して、過去の助動詞は勿論、出来るならば、形容詞の語尾の暗示を惹き出して行かねばならぬのである。
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みつ/\し 久米の子らが垣もとに栽ゑ し はじかみ 口ひゞく……(記紀)
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この例に、「うゑこなぎ」の歌をつき合せて見ると、「垣もとに栽ゑはじかみ」と言うてもよい処だつた事が知れる。
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ありぎぬの 三重の子がさゝがせる みづたまうきに 浮き し 脂 落ちなづさひ みなこをろ/\に……(記)
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の場合も、瑞玉盞《ミヅタマウキ》の同音聯想として、浮き[#「浮き」に傍点]が出て、浮き脂と続くところを、「し」を挿入してゐる。此歌の此部分は尠くとも、神代巻のおのこ
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