た形から音韻変化で、「あなにやし」が現れたのだ。かうした「ゑや」の過程を踏んで、「し」を呼んだ形が、「よしゑやし」である。
「あなにやし」「よしゑやし」の類は、語の歴史としては、比較的に古いまゝに固定して、後まで残つたものであらうが、用法から見ると、新しいものに似た所がある。だが其は、全く変つて居て、まだ文法上の拘束を受けない、語根時代の俤を示してゐるもの、と見ねばならぬ一群の語句に接して行くものだつたのが、段々其自身の内容が限定せられて来た為、他の語に続く形まできまつた訣であらう。
「やし」「よし」が完成した語尾の様に見えるのも、かうして見ると、単なる無機的の修飾語の一部に過ぎないことになる。さうして其上に、「し」が緊密に「や」「よ」に接してゐるものでないことが知れる。
        ○
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○射ゆしゝをつなぐ河辺の若草の(斉明紀)
 ………………認河辺の和草の(万葉巻十六)
○はるがすみ春日の里|爾《ニ》殖子水葱(同巻三)
 上つ毛野いかほの沼|爾《ニ》宇恵古奈宜(同巻十四)
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今日我々の持つ時間観念を含まずに、此に似た熟語を作つた場合
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