の生れて来ることも、見当がつく。万葉に残つてゐる「しゑや」は、此一例を除くと、殆、形容詞を承けた痕は見えない。独立した感動詞・副詞の様な形をとつてゐる。だが、もつと古く形容詞に結合する習慣が固定して、更に遊離して作つた成句と見られる。
「あなにやし」も分解すれば、「あなに」が出来るが、此は、「あやに」(語原は別だが)に通じる「あなに」である。この「に」に特殊な意義があるのか、今日では考へられない。唯、「あな」も「あなに」も、語尾の有無の相違だけと見られるので、「あな、えをとこよ」の義に説ける。此「に」は副詞語尾であると共に、古くは、語根「あな」を名詞化するもので、更に其に用言的機能をすら与へてゐたのだ。「桜の花のにほひはも。あなに」などを見れば、「ゑ」と価値は変らない。此「あなに」に更に「ゑ」のついて、「あなにゑ」の形が出来、その間に或は、あなにや[#「あなにや」に傍線]([#ここから割り注]神武紀、「妍哉」此云鞅奈珥(恵ナシ)夜[#ここで割り注終わり])となつたらしいものもあり、「や」がついて、「あなにゑや」にもなつた。一方亦あなにゑ[#「あなにゑ」に傍線](あなにや)に「し」のつい
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