拡げて来る径路を明らかに認めることが出来たのだ。其が同時に、用言式に言へば、連体性のものを、終止形風に独立せしめることになつたのである。
        ○
「はしきやし」は、かうした一類の中、最特殊な用語例を示したものであるが、尚先にあげた、「あなにやし」「よしゑやし」を見ると、似た処を見出す。「よしゑやし」の「よしゑ」は、「よし」と「ゑ」とが分割出来るものに相違ない。形容詞・動詞の語尾につく所謂感動の語尾の「ゑ」である。今日の理会を以てすれば、「よ」と音韵の上で通じるものと見ることが出来る。だから、或は「よしゑやし」の場合、同じ価値を持つ「ゑ」と「や」とが、重畳せられたものではあるまいか。
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世の中は、古飛斯宜志恵夜《コヒシケシヱヤ》。かくしあらば、梅の花にもならましものを(万葉巻五)
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この第二句を「恋しけ しゑや」「恋ひ繁しゑ や」「恋しけし ゑや」何れにとる事も出来る。だが、何れにしても、ゑ[#「ゑ」に傍点]・や[#「や」に傍点]の結合状態は、暗示せられてゐる。而も、更に見られるのは、文法の固定作用から、「しゑや」と言ふ一つの形式
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