すると言ふ事は、同時に、祖先の奉仕してゐる神と共に、降服して居つたと言ふ事になるので、歴史的に飜訳して言ひ換へると、祖先の神以来、服従して居つたと言ふ事になるのである。だから、征服せられ、降服したとしても、必しも、信仰をまで捨てる必要はなかつた。奴隷階級であつても、信仰だけは、支配階級のものを、其まゝ受け入れなくともよかつた。後々まで、寺と寺の奴隷・社と社の奴隷・豪族と被管との間などに於て祀る神仏の、別々のものである事を認めて居たのは、此長い歴史的理由からであつた。
くゞつ[#「くゞつ」に傍線]は海部《アマベ》の一部であるが為に、海部の祀る神は、海部降服の後は、主神たる八幡神に対しては、精霊の位置に置かれた訣だが、其でも、彼等はやはり、祖先伝来の神に奉仕した。此がくゞつ[#「くゞつ」に傍線]の仕へる百太夫である。
断らなければならぬ事は、百太夫或は才の男は、元はお迎へ人形であつたのだが、いつか迎へられる神と合一して、一体となり、新しい主神に対して、従属関係を持つ様になつた。此意味に於て、完全に、此人形がくゞつ[#「くゞつ」に傍線]の神となつたのだ。
かうして見ると、社々の祭礼に出るお迎
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