た」に傍点]と訓《ヨ》み慣《ナ》れて来たが、正確な用字例は、舞人の自ら諷誦《フウシヨウ》する詞章である。
此歌は、鹿・蟹の述懐歌らしいものになつて居るが、元は農業の、害物駆除の呪言《ジユゴン》から出て居る。即、田畠を荒す精霊の代表として、鹿や蟹に、服従を誓はす形の呪言があり、鹿や蟹に扮した者の誓ふ、身ぶりや、覆奏詞《カヘリマヲシ》があつた。此副演出の部分が発達して、次第に、滑稽な詠、をこ[#「をこ」に傍点]な身ぶりに、人を絶倒させるやうな演芸が、成立するまでに、変つたのだと思ふ。
其身ぶりを、人がしたか、人形がしたかは訣らない。併し、呪言の副演出の本体は、人体であるが、もどき[#「もどき」に傍線]役に廻る者は、地方によつて、違うて居た。人間であつた事も勿論あるが、ある国・ある家の神事に出る精霊役は、人形である事もあり、又鏡・瓢《ヒサゴ》などを顔とした、仮りの偶人である事もあつた。此だけの事は、考へてよい根拠が十分にある。
ほかひゞと[#「ほかひゞと」に傍線]は、細かに糺して見ると、くゞつ[#「くゞつ」に傍線]とおなじ者でない処も見える。併し、此ほかひゞと[#「ほかひゞと」に傍線]の中に
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