ここで字下げ終わり]
こんな歌を作つて、慰むともなく、苦しむともなく暮して居たのは、其年の暮れのことである。私などは今度の大戦争にすら、何の寄与することの出来ぬ、実に無能力な、国民の面よごしとも言ふべき生活より外に出来ぬ人間である。そんな間に、せめては自分の暮しのたそく[#「たそく」に傍点]――補足――になつてくれて居た若者を、いくさにやつて、自分戦ひの深さを痛感することが、さうして自身をいためつけることが、幾分でも、民族の共通の苦患を共感して居るのだといふ――ほんたうは、真実に苦しんでゐる世の中にとつては、何にもならぬことだが、――さう思ひ沁むことだけでも、世間並の生活に這入つてゐるやうな気がして居た。さう思うてなだめつけるやうな安らかさに住して居たが、からだはなか/\言ふことをきかなんだ。まづ第一に電話鈴が朝端《アサハナ》から、其ははな/″\しく[#「はな/″\しく」に傍点]鳴り出す。物の本を買ふためや、其外の用で、ほんたうに頻繁に為替をくまねばならぬ。義理に書かずに居られぬ手紙の返事なども、どれ位あるか知れぬ。もつと困らされるのは、税金その他の日ぎりの冥加銭を納めに行くこと、さう
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