の神にまでたむけて居る。ぬさ[#「ぬさ」に傍線]は着物を供へる形の固定したものであらう。着物が袖だけになり、更に布になり、布のきれはしになると言ふ風に替つて、段々ぬさ袋の内容は簡単になつて行つたものと思はれる。山の神の手向けとして袖を截つた事もあつたのは「たむけには、つゞりの袖も截るべきに」と言ふ素性法師の歌(古今集)からでも知られる。而も、かうした精霊が自分から衣や袖を欲して請求するものと考へられる様になつて来る。此が袖もぎ神[#「袖もぎ神」に傍線]である。道行く人の俄かに躓き、仆れることに由つて、其処に神のあつて、袖を求めて居るものと言ふ風に判ぜられる様になる。壱岐の島などでは、袖とり神[#「袖とり神」に傍線]の外に草履とり神[#「草履とり神」に傍線]と言うて、草履を欲する神さへある。袖もぎ神は、形もなく祠もない。目に見えぬものと考へられて来た様である。
ぬさ[#「ぬさ」に傍線]が布帛の方にばかり傾いて来たのは、恐らく古人の布帛を珍重する心が、みてぐら[#「みてぐら」に傍線]を供へる対象とぬさ[#「ぬさ」に傍線]を献るべき神とを混同させる様にしたからであらう。ぬさ[#「ぬさ」に傍線
前へ 次へ
全16ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング