河の花祭りに、杖の先に稲の穂を附けて来たといふが、此では、意味が訣らなくなる。花杖は、今年の稲の花を祝福する為のものである。花祭りの花は、稲の花の象徴であるのだ。

     二

花と言ふ語《ことば》は、簡単に言ふと、ほ[#「ほ」に傍線]・うら[#「うら」に傍線]と意の近いもので、前兆・先触れと言ふ位の意味になるらしい。ほすゝき[#「ほすゝき」に傍線]・はなすゝき[#「はなすゝき」に傍線]が一つ物であるなどを考へ併せればわかる。物の先触れと言うてもよかつたのである。
雪は豊年の貢、と言うた。雪は、土地の精霊が、豊年を村の貢として見せる、即、予め豊年を知らせる為に降らせるのだと考へた。雪は米の花の前兆である。雪を稲の花と見て居る。ほんとうは、山にかゝつて居る雪を主とするのであるが、後には、地上の雪も山の雪と同様に見るやうになつた。稲の花の一種の象徴なのである。処が、かうした意味の花は沢山ある。譬へば、冬の祭り、殊に宮廷の冬祭りなる鎮魂祭に持ち出す桙は、柊で作つたものである。日本紀・続日本紀を見ると、八尋桙根と言ふのが国々から奉られて居る。此は恐らく、棒ではなくて、柊を立ち樹のまゝ抜いて
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