生活が幸福になる。根が生えない時は効力がない事になると信じた。其杖は、普通根のあるものであるが、場合によつては、根のないものもある。桑の木などは、根がなくとも著き易い木で、祝詞にも「生《イカ》し八桑枝《ヤクハエ》の如く」などゝ書かれて居て、枝の繁る木である。ともかく、山人は根の附いて居る棒、或は根のない棒を持つて来て、其を挿して行くのである。
昔の人は、杖を倒に突いて、梢の方を下にして居る。此杖を叉杖《マタブリ》と言ふ。昔は乞食房主が此を持つて歩いた。此は西洋にも、何処にでもある形で、物を探つて行く為のものである。杖には根がある。後世の人には、杖を立てたのに、芽の出る事は非常に、不思議に感ぜられるけれども、此は、杖に対する観念が変化して居るからである。高僧たちが突きさして行つた一夜竹・一夜松の如きも、此が伝説化したものに過ぎない。さうして、弓矢でも根が生える様に、変つて考へられて行つたのだ。
此等は杖の信仰である。祝福の効果があるか、どうかの試みである。此効果の現れることを「ほ」が現れるとも「うら」が現れるとも言ふ。此杖は即「花育て」の花杖と同じものである。杖の先に花の咲く事がある。三
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