く、此ははねかづら[#「はねかづら」に傍線]を着ける事かどうか判明しないが、尠くとも、純粋の処女の時代であつて、手の触れられない事を意味する物忌みの徴《シルシ》のものであるらしい。
処女を犯すと、非常な穢れに触れるのだ。曾て私は、小田原で猟師の歌つてゐる唄を聞いた。其は「下田の沖のけなし島[#「けなし島」に傍線]。けのないヽヽヽヽはかはらけだ。かはらけヽヽすりや七日の穢れ。七日どころか一生の穢れ」といふのである。即、けなし島[#「けなし島」に傍線]と言ふ所に、処女の期間を意味して居る。つまり処女犯には、七日のつゝしみ[#「つゝしみ」に傍線]を経なければならぬと言ふ事で、即、神事に仕へない女は、女ではなかつたのである。神事に仕へると、神の成女戒を受ける。神のためしを受けて、始めて、男に媾ふ事が出来るのである。
処女がはねかづら[#「はねかづら」に傍線]をするのは、成女戒の前である。成女戒が済めば、其|鬘《カツラ》を取つてしまふ。はねかづら[#「はねかづら」に傍線]は、花でなくても、尠くとも植物ではあらう。けれども、此は結局、今日からは解く事は出来ない。ただ当時は、此だけで、皆了解出来たの
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