どもの幼時は、まだこんな遊戯唄が残つてゐた。
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頭の皿は、いつさら、むさら。
なゝさら、やさら。こゝのさら、とさら。
とさらの上へ灸《ヤイト》を据ゑて、
熱や 悲しや 金仏《カナボトケ》けい。けいや。
……………………
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何の意味をも失うてはゐるが、皿を数へるらしい文句である。皿数への文句としては、「嬉遊笑覧」に引いた、土佐の「ぜゞがこう」の文句が、暗示に富んでゐる。
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向河原《ムカヒカハラ》で、土器《カハラケ》焼《ヤケ》ば(ヤキハ?)
いつさら、むさら、なゝさら、やさら。
やさら目に遅れて、づでんどつさり。
其こそ 鬼よ。
簑着て 笠着て来るものが鬼よ。
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此唄を謡ひながら、順番に手の甲を打つ。唄の最後に、手の甲を打たれた者が、鬼になる。かういふ風に書いて、此が世間の皿数への化け物の諺の出処だらう、とおもしろい着眼を示してゐる。
皿数への唄に似たものは、古くは、今昔物語にもある。女房が夫を捨てゝ、白鳥となつて去る時、書き残した歌、
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あさもよひ 紀の川ゆすり行く水の いつ
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