うて来た考へが、壊れて了うた。長者|原《バル》と言ふ海を受けた高台は、があたろ[#「があたろ」に傍線]を使うて長者になつた人の屋敷趾だと言ふ。其は小さな、髪ふり乱した子どもの姿だつた。其が来初めてから、俄かに長者になり、家蔵は段々建て増した。があたろ[#「があたろ」に傍線]が歩いた処は、びしよ/″\と濡れてゐる。畳の上までも、それで上つて来る。果ては、長者の女房が嫌ひ出して、来させない様にした。すると忽、家蔵も消えてなくなり、長者の後に立つて居た屏風は、岩になつて残つた。此は男の子らしい。
平戸には、女のがあたろ[#「があたろ」に傍線]の話をしてゐる。ある分限者の家に仕へた女、毎日来ては、毎晩帰る。何処から来るか、家処をあかさない。ある時、後を尾《ツ》けて行くと、海の波が二つに開けた。通ひ女はどん/\、其中へ這入つて見えなくなつた。女は其を悟つたかして、其後ふつつり出て来なくなつたと言ふ。
[#「小堀平七氏蔵絵巻による」のキャプション付きの河童の図(fig18395_01.png)入る]
此二つの話で見ると、毎日海から出て来る事、家の富みに関係ある事、ある家主に使はれる事、主の失策を怨
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