の信仰に、土地々々の水の精霊の要素を交へて来たことを基礎として、綴つたのである。たゞ、茲には、その方面の証明の、甚しく興味のないのを虞れて、単に既に決定した前提のやうにして、書き進めたのである。
この話の中にさしこんだ河童の図は、すべて、元熊本藩の水練師範小堀平七さんの家に伝る、河童の絵巻から拝借した。
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一 河童の女
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河郎の恋する宿や夏の月
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蕪村の句には、その絵に封ぜられたものが、極端に出てゐる。自由にふるまうた様でも、流派の伝襲には勝てなかつたのである。彼の心の土佐絵や浮世絵は誹諧の形を仮りて現れた。此句だつて、唯の墨書きではない。又単に所謂俳画なるものでもない。男に化けて、娘の宿を訪ふ河童。水郷の夜更けの夏の月。ある種の合巻を思はせる図どりである。かうした趣向は或は、蕪村自身の創作の様に見えるかも知れぬ。尤、近代の河童には、此点の欠けて居る伝説は多いが、以前はやつぱりあつたのである。
私は、二度も壱岐の島を調べた。其結果、河を名とする処から、河童の本拠を河その他淡水のありかと思
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